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仙台高等裁判所 昭和43年(ネ)169号 判決 1969年4月30日

控訴人 川崎新興株式会社

右代表者代表取締役 李鐘河

右訴訟代理人弁護士 今井吉之

同 高橋勇次

被控訴人 金純煥

右訴訟代理人弁護士 渡辺春雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人と被控訴人間において、別紙目録(一)、(二)記載の各建物の賃借権が控訴人の持分四分の三、被控訴人の持分四分の一の共有であることを確認する。控訴人の当審における予備的請求中その余の請求を棄却する。

控訴費用はこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は第一次に「原判決を取消す。控訴人が別紙目録記載の各建物における遊技場営業について業務執行権を有することを確認する。被控訴人は右建物における控訴人の業務執行を妨害してはならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、予備的に「別紙目録記載の建物の賃借権は控訴人が持分四分の三、被控訴人が持分四分の一づつの共有であることを確認する。控訴人・被控訴人が共有する右建物の賃借権についてその持分に応じて分割せよ。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、予備的請求については「訴の変更を許さない。」との裁判を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠関係は、

控訴代理人において

一、組合の解散事由である「已むことを得ざる事由」とは、経済界の事情の変更、組合の財産状況、組合員間の不和などにより、組合の目的を達することが著しく困難となることである。

本件において、昭和三八年度の納税について控訴人、被控訴人間に若干の意見の相違はあったが、それはその後解消し、現在では既に円満解決済であり、また業務執行者についての争いも実は被控訴人が本件組合契約を匿名組合契約であると誤解しているからに他ならず、その他不和の事由いずれをみても未だ民法所定の組合解散の事由があるとは解されない。

二、被控訴人の主張する本件組合の解散請求は権利の濫用であって無効である。即ち、

(1)  被控訴人は別紙目録(一)記載の建物の賃借人及び営業許可の各名義人が被控訴人となっているのを奇貨として、控訴人を組合事業より追放してこれが独占を図り、それがため本件組合契約を匿名組合契約である旨強弁し、控訴人の業務執行を妨害し更には売上金をも自由に支配しようとした。しかし原審において匿名組合契約が認められそうになくなったので組合の解散を請求したものであり、動機において著しく信義に反する。

(2)  更に被控訴人は賃貸人である訴外須田太郎を欺罔し、現在組合事業が営まれている本件建物内において被控訴人の妻である訴外金本小夜子を代表取締役とする丸井商事株式会社にパチンコ営業をさせようと図り、昭和四二年六月三〇日福島県公安委員会に対しパチンコ営業の許可申請をし、控訴人の組合事業の乗取りを策した。かかる行為は控訴人に対する著しい背信行為であり、しかもかかる事由が不和の大きな原因である以上、自ら不和を生ぜしめた被控訴人がその不和を理由に組合の解散を請求することは信義則に反し許されない。

(3)  本件組合は控訴人の積年の努力により業績も順調に向上し、創業以来一〇余年を経た現在この種遊技場としては福島県内有数のものにまで発展した。かかる事業を解散により消滅せしめることはこれによる控訴人の損害もさることながら、従業員一〇数名の職をも奪うことになる。

(4)  被控訴人は労せずして本件組合事業から三分の一の割合による利益の分配を受け、且つその他数ヶ所で自ら同種事業を経営しているのであるから、本件組合の解散請求が認められず本件組合の事業が継続されることになっても特段の損害を蒙るものではない。

(5)  以上のような点を綜合すると、被控訴人の主張する本件組合解散の請求は明らかに信義に反し権利の乱用であって無効である。

≪中略≫

被控訴代理人において

一、被控訴人は控訴会社とではなく、岩本重康、岩本精治郎、岩本倍旺、昔宮将雄及び金森亮顕の五名と匿名組合契約をなしたものであり、右組合の営業者は被控訴人である。

二、仮りに本件組合が被控訴人と控訴人間の控訴人主張のような組合であるとしても、

(一)  その業務執行者は被控訴人である。

(二)  被控訴人は次に述べるような事由から控訴人との不和が益々増大するばかりで、これ以上共同して事業を継続することが著しく困難というよりもむしろ不能の状態に達していたので、本件組合の解散を請求したのであって、右解散請求が権利の濫用であるとの控訴人の主張は争う。即ち

(1)  控訴人の出資したと称するパチンコ機械代三〇〇万円は開業一、二年の間に償還されたのに反し、被控訴人の出資分は償還されなかったので、被控訴人は永年出資持分や利益分配の割合変更を申出たが、控訴人は被控訴人が計数にうとく無学であることを奇貨として巧言をもってこれを拒否し、また控訴人側より出した使用人の岩本光雄を通じて被控訴人をのけものにし事業の独占を図り、被控訴人の意思を無視して常陽銀行の被控訴人名義の預金口座を徳陽相互銀行の岩本光雄名義の預金口座に変更する等事業運営に絶えず軋轢が生じていたし、納税もまとまれば累進課税されるので各個人の申告とするよう求めたがこれも拒否されて来た。

(2)  被控訴人は昭和四〇年頃控訴人が昭和三九年三月一二日から同年一一月一一日までの間前後六回に亘り合計三四〇万円を擅に福島ゲームセンターの売上金から仙台市の東北新興株式会社に送金していることが判明したので、控訴人にその説明と善後措置を求めて来たが未だに納得のいく説明が得られず未解決のまま現在に至っている。その他控訴人が被控訴人の承諾なしに一〇〇万円、六〇万円、一五万円などと勝手に持ち去ったことも明らかで、かかる不信行為をなす控訴人と共同事業を継続することは不可能である。

(3)  控訴人は諸所方々で遊技場を経営しているのであるから、福島ゲームセンターで営業ができないとしても何らの痛痒をも感ずるものではない筈である。被控訴人は仙台の遊技場を売却しその資金で福島市に進出したもので、被控訴人の生活は本遊技場の経営一つにかかっているのである。組合解散後被控訴人は新たに丸井商事株式会社として遊技場の経営をなすべく県公安委員会に営業許可申請をなし、その準備行為をなしたのはむしろ当然であって、これが不信行為であるとの控訴人の主張は筋違いである。根強い不和の結果このような準備行為をなさざるを得なかったのに、控訴人はこのことが不和の大きな原因であり、その不和を理由に組合の解散を請求したと非難しているが誤るも甚しいというべきである。

(4)  以上の次第で、単に昭和三八年度の納税について若干の意見の相違が生じた等の単純な問題ではなく、その争いの根は深く、当事者相互の話合いの余地はなく、内容証明郵便の発送合戦となり遂に訴訟に発展した次第で、本件組合解散の請求は万止むを得ざるに出でたる処置である。

≪以下事実省略≫

理由

一、控訴人の第一次の請求について

(一)  ≪証拠省略≫を綜合すると、控訴人は昭和三三年一〇月頃被控訴人から、共同で遊技場を経営したい旨申出があり、その協力方を求められたので、その経営する場所等を見分した結果右申出の共同経営をなすことを承諾し、両者協力してその開店準備を整えたうえ、同年一一月一日被控訴人名義で福島県公安委員会からパチンコ営業の許可を受けたこと、そして同年一一月頃控訴人と被控訴人間において、(1)須田太郎所有の本件建物において福島ゲームセンターなる名称で遊技場を共同経営する。(2)事業資金は四〇〇万円とし、控訴人の出資額は三〇〇万円、被控訴人のそれは一〇〇万円とする。(3)共同経営の結果生ずる損益は毎月の決算終了時に控訴人が三分の二、被控訴人が三分の一の割合で分配又は分担する。(4)福島ゲームセンターの営業並に業務は控訴人が担当し、全責任をもってこれに当る旨の「福島ゲームセンター(遊技場)共同事業契約」を締結したこと、そして以来控訴人側から派遣された金森亮顕、岩本光雄らが順次責任者として別紙目録(一)(二)記載の本件建物(同目録(一)記載の建物は右共同事業契約締結前に被控訴人名義で須田太郎から賃借し、同(二)の建物はその後岩本重康名義で須田太郎から賃借した。)において遊技場を経営し、その業務を執行して来たことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定の事実によれば、控訴人と被控訴人間の右契約は、共同で遊技場を経営することを目的とし、しかもその業務執行者を控訴人と定めた組合契約というべく、被控訴人主張のような、岩本重康らが被控訴人の営業のために出資してその利益の分配を受けることを約した匿名組合契約であるとは認められない。

もっとも、≪証拠省略≫によると、福島ゲームセンターの商業登記簿上の営業名義人は被控訴人となっており、また銀行との取引や納税等も被控訴人の名義でなしていたことが認められるけれども、前記認定の事実をも綜合すると、右営業の経営については被控訴人名義で福島県公安委員会から営業許可を受けている関係から表面上被控訴人を営業名義人としていたにすぎないものと認められるから、右のような事実があるからといって前記組合を被控訴人主張のような匿名組合と認めることはできない。

(二)  ところで被控訴人は本訴(原審第六回口頭弁論)において右組合の解散を請求するので、民法第六八三条のいわゆる已むを得ない事由が存するか否かについて判断する。

≪証拠省略≫を綜合すると、控訴人と被控訴人は前記のようにして福島ゲームセンターを経営し、その利益は控訴人二、被控訴人一の割合で分配し、右ゲームセンターの所得については控訴人側から派遣された営業責任者が被控訴人名義で税務署に申告納税していたのであるが、昭和三九年頃右ゲームセンターの経理関係について税務署から調査を受け、その結果過去三ヶ年分の税金として約一、〇〇〇万円を追徴される更正決定を受けるようになったこと、そこで被控訴人において調査したところ、控訴人が右ゲームセンターの所得を帳簿に記載せずに他に送金し、所得を不正に領得していたことなどが税務署の調査で判明追及され右のような更正決定をうけるようになったものであることが判明したことなどから、被控訴人は控訴人のやり方に不信を抱くようになり、両者間に紛争が生じて共同経営の継続についても意見が分れるようになったこと、そして被控訴人は控訴人と共同して福島ゲームセンターを経営する意思が全くなくなり、強くその解消を要求するようになったものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、被控訴人と控訴人との関係は、右のような事由で既に信頼関係が破壊され、福島ゲームセンターの共同経営を円満に運営継続することは到底できない事情にあると認めざるを得ないから、本件組合の解散請求についてはいわゆる已むを得ない事由があるというべきである。

(三)  控訴人は被控訴人の組合の解散請求は権利の濫用である旨主張するので、この点について判断する。

控訴人は被控訴人の解散請求は先づ動機において著しく信義則に反する旨主張するけれども、前記のような事由で共同事業の継続が著しく困難となった以上、その解散を主張し共同経営の廃止を求めることをもって直ちに信義則に反するとは言えないし、他に被控訴人の解散請求が動機において著しく信義則に反すると認められるような証拠はない。

また控訴人は自ら不和の原因を生ぜしめた被控訴人がその不和を理由に組合の解散を請求することは信義則に反する旨主張するけれども、控訴人と被控訴人が不和になった原因は前記認定のとおりであって、控訴人の主張するように被控訴人が不和の原因を生ぜしめたものとは認められないから、控訴人の右主張も採用できない。

また本件組合の解散請求について前記のような已むを得ない事由がある以上、控訴人が事実摘示の二の(3)(4)で主張するような事由があるからといって、それだけで右組合の解散請求を権利の濫用ということはできないから、控訴人の権利濫用の主張は採用できない。

(四)  してみると、本件組合は被控訴人の解散請求により解散となったのであるから、前記の組合契約によって与えられた控訴人の業務執行の権限もこれによって消滅したものというべく、従って本件組合が解散前の状態にあることを前提とする控訴人の第一次の請求はすべて理由がないものといわなければならない。

二、控訴人の予備的請求について≪省略≫

三、そうすると、控訴人の第一次の請求はこれを棄却すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がなく、また控訴人の当審における予備的請求中賃借権の共有確認を求める部分はこれを認容すべきであるが、分割の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって民事訴訟法第三八四条、第九五条、第九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上武 裁判官 松本晃平 伊藤和男)

<以下省略>

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